.." />

旅行

2013年6月25日
コミュニティと媒介の役割 ~ TechShop San Francisco 訪問~


休暇と視察を兼ねて、サンフランシスコで2013年5月18日、19日に開催されたMaker Faire Bayarea 2013に参加した。
イベントの前日(=搬入日)の夜には、毎年恒例のパエリアパーティーが開催される。スポンサー企業のサポートで、Maker(=出展者たち)にパエリアとビールが無料でふるまわれる。
直径2メートル以上はあろうかという大きなパエリア鍋で、たくさんのパエリアが作られている様は圧巻だ。

_MG_1152
パエリアパーティーのよいところは、酔っぱらいつついろいろなMakerたちと交流ができるところだ。私も、ビール2杯の勢いで、OpenROVというオープンソースの潜水艦を作るプロジェクトのメンバーと、サンフランシスコにあるTechShopのスタッフと友達になった。

_MG_1169

Open ROVのお二人。

日本から来たというと、それはCOOLだという話になり、自分たちが関わっているプロジェクトの話で盛り上がり、私も拙い英語で必死になってコミュニケーションをした。

TechShopのスタッフのメルは、スタンフォード大学在学中に日本のJRでインターンをした経験があり、片言の日本語で一生懸命話しかけてくれる。

彼が勤めているTechShopに遊びに来ないかと誘ってくれたので、Maker Faire Bayareaの翌日に、サンフランシスコの中心にあるTechShopを訪問することにした。

*設備と情報とコミュニティ

TechShopは会員制のDIYスペースだ。個人会員は1か月175ドル~を支払うことで、スペースに備え付けられている金属加工、木工、3Dプリンタ、レーザーカッター、ミシン等々の設備を自由に利用できる。単に設備が置かれているだけではなく、ワークショップや使い方のレクチャーも随時開催されており、「作りたいものを作ることができる設備と情報、そして作ることを支えるコミュニティ」が整えられているのがポイントだ。

_MG_1791

入口は小さ目だが、奥が広い。中に入ると、メルが迎え入れてくれた。まずは防護用のゴーグルを着用せよという。早速1階から見て回る。1階はおよそ200坪~300坪程度だろうか。大きく金属加工のためのスペースと、木工用のスペースに分かれていた。現在サンフランシスコ店の会員数は約900名。

こちらは金属加工のためのスペース。

_MG_1737

_MG_1742

_MG_1740

_MG_1739

溶接もできる。車を自分で修理する人が多いのだとか。

_MG_1750

ウォータージェットの切断機は、6インチの厚さのスチールを切断することができる。

_MG_1754

壊れたものは自分で直す。自動車を修理するために、自分で段ボールで作った型ををスキャニングし、切断機用のデータを作成したもの。

_MG_1756

木工ゾーンでは、ShopbotのCNCルーターが大活躍している。

_MG_1758

 

_MG_1761

またSawStop社の軸傾斜丸鋸盤は、人の手が触れると瞬時にそれを感知して、歯の回転が止まるという安全性を重視したつくりになっている。途中メルの口からは何回も「安全」という言葉が出た。

_MG_1760

 

2階はカンファレンスルーム。会員だけでなく、会員以外の人もこの場所を使うことができる。その隣にはPCルーム。PCを使ったワークショップも開催可能だ。

_MG_1767
このパソコンの中には立体物の制作に関わるかなり高額なソフトが多数入っており、このソフトを使うだけでも月会費のもとは十分に取れるんだとか。

3階は、ワーキングスペースになっている。これまた200~300坪といったところ。

_MG_1770
フリーアドレスのスペースで仕事をしたり、レーザーカッターやミシン等の機械も使用できる。

_MG_1785

こちらはキルトマシン。ミシン類も充実。

_MG_1787

 

*DCというお仕事

TechShopの面白いところは、インキュベーションセンターのような側面を持っているという点だ。アントレプレナーが多数席をおいており、ここから新しいプロジェクトがたくさん生まれている。
3DプリンタメーカーのType A Machines もここにオフィスを構える。

embraceもTechShopを舞台にうまれたプロジェクトの一つ。新生児用の安価な保温器だ。特殊なプラスチックを使っており、電気を使わなくても適切な温度で未熟児を寒さから守ることができる。
後進国において、未熟児として生まれた子供が、保育器に入るまでに死んでしまう事例は少なくない。世界で年間2000万人の未熟児が生まれるが、そのうち400万人が1か月以内に亡くなってしまう。その原因の多くは「寒さ」だ。そして新生児用の保育器は30,000ドルはくだらない。一方、「emblace」は25ドルで販売されており、これまでの数多くの子供の命を救った。そしてembraceのプロジェクトがプロトタイプを作るのに使用されたのが、TechShopだったのだという。kickstarterで約400,000ドルを調達したBoosted BoardsもTechshopサンホゼに拠点を置いているのだそうだ。ORU-KAYACもTechShopを活動の拠点にしているのだとか。

物を作ろうとする人たちが集まり、場を同じくすることで、いろいろな出会いが生まれる。そして、その出会いが新しいビジネスにつながる。
印象論で恐縮なのだけれども、本当に場所自体がオープンな雰囲気を醸し出してて、なおかつ集まる人同士がコラボレーションして、きちんと商売をしている。

(どうもこのあたりが日本の似たような場所との一番の違いのように感じてしまうのですが、まだなぜなのかよくわからないでいる)

TechShop サンフランシスコ店で働くスタッフは16名程度。特殊な設備のインストラクターにはそれぞれのスペシャリストとして社外の人を招くことも多い。
そして、ここで重要なことは、TechShopにいる「Dream Consultant(DC)」という役職の存在だとメルは言う。

彼らは、店舗の中をうろうろと歩いては、そこで働いている人に話しかける。「やぁ?最近どうだい?」「ばっちりだよ!」「こんな物作ったんだけど」「それはクールだね!」とこんな具合に、他愛のないコミュニケーションをそこここの人としている。しかし、これもれっきとしたDCの仕事なのである。

メルはまだTechShopが1店舗しかなかったころから、DCの仕事をしているのだそうだ。TechSHOPに来る人は、物を作る経験が浅い人が多い。紙ナプキンに書いたスケッチを見せて、おそるおそる「これは作れますか?」と聞くような人も多いのだという。それに「作れるよ」「こうすればいいのさ」「それならこういう機材を使ってみたら?」と教えてあげる役割。それがDCなのである。
せっかくTechShopの会員になり、いざ物を作ることに挑戦してみても、「できない」という壁が目の前に立ちはだかると、そこですべてが止まってしまい、そして何も言わずに彼らは去って行ってしまう。
そこを、一緒に頑張ろう!と背中を押して、夢をかなえる手伝いをするのがDCの仕事なのだ。

現在、メルは一歩進んでDCを育てるという仕事をしている。同じ店にいる1名のDC育成担当者とともに、後進の育成に力を入れる。新店が開店するときは1か月でDCを育てなければならない。「でもこれは一番重要な仕事だと思う、DCと出会うことで、人生が変わるから」

物を作ることに対する思い込みから解放するというのもDCの役割だという。
例えば、自分は女性だから溶接はできないとか、数学は苦手だから、プログラミングができないという思い込み、そういった縛りを「実は簡単にできるんだよ」と外してあげるのだ。
「とはいえ、3Dのデータを作るのは難しいんじゃないの?私だってやってみたけど難しくてちょっと…。」と言う私に、メルは目の前で、AutodeskのInventorというソフトを使って、3Dのデータを作る方法を見せてくれた。使うボタンは、これと、これと、これの3つだけ。ちょちょいのちょい。ほら、簡単だろ?確かに、あっという間に3Dのデータができた。へぇええーーー。
「機能はたくさんあるけれども、はじめるのは簡単なんだ。この雰囲気を伝えることが大切なんだよ」

*Sumo-botでチームビルディング

TechShopのビジネスは、会員向けのものにとどまらない。その事業の一つの柱が、企業研修の受託事業がある。GoogleやYahooなど、シリコンバレーの企業研修の一環として、TechsShopの機材やノウハウを活用し、チームで物を作る経験を通して、結束力を固めるという研修プランを提供しているのだそうだ。その一つがSUMO-BOT Battle。参加者をいくつかのチームに分け、ロボットのキットを渡し、チームごとにロボットを作る。

ロボットの組み立て自体は簡単なのだが、さらにそれをTechShopのツールを使ってカスタマイズし、最終的にはチームのロボット同士を戦わせる。約4時間で完結するこのコースは、企業内の相互理解を促し、チームメンバーの結束力を高める効果があるのだという。

SPO_MG_1283

「みんなでゴーカートレースをするとかいう企業研修にお金を捨てている会社があるけど、こっちの方が断然チームワークが高まるよ」
ものを作ることを通して、人と人とは確実につながることができる。

私がもう一つ軸足を置いている流通小売業の世界では、実店舗がインターネットにお客を奪われないためにはどうすべきか、ということがよく議論になるのだけれども、このTechShopのあり方には、決してインターネットショップには提供できない価値が存在しているように思えた。サンフランシスコに来る前に、ラスベガスで小売業の視察ツアーに参加していて、トレーダージョーズというスーパーマーケットの取材をしたのだけれども、そこでは「ヘルムス」という役割の人が、proactiveにお客さんに声をかける仕組みだ。「何かお困りのことは無いですか?」「何をお探しですか?」「何か試食したいものはありますか?」。これも店とお客のコミュニケーションの形で、TechShopにおけるDCと同じ役割のように感じた。

機材は、そこにあるだけではただのものに過ぎない。そして、機材が置かれた場所も、それだけでは単なる場所に過ぎない。
TechShopのこのDream Consultantという役割が、コミュニティを活性化し、つなげ、広げ、場所に命を吹き込む。おせっかいに、人と人との関わり合いを作っていき、相手を元気づけて、知恵を授ける。昔であればおせっかいなおじさん、おばさんの役割。それを仕事として行わせるところがなんだかアメリカらしいような感じがする。
コミュニティを作り、継続させるためには、人と人とを結び付け、人を後押しする「媒介」役が必要なのだろう。そんな思いが強まった視察だった。

Thanks, Mel!!

_MG_1166

RSS Feed  Posted in 旅行 | No Comments »

Related Posts